
日をフレッド・ロジャースが行ったように始めることができたら、どれくらいの可能性が広がるか想像できますか。
文:ケーシー・ジャクソン
時としてこの世界は気の重くなるような場所と感じてしまいます。
戦争の脅威。科学の奪い合い。人種差別。性差別。対立する政治家達。不平等。激高した市民。行方不明の子ども達。病気。天候に関する懸念。いじめ。
このリストは途切れることはありません。
世界は過去と比べると実際にはよくなっているという専門家がおり、「データが示す我々の世界(Our World in Data)」を見ると、貧困、識字能力、健康、自由および教育に関して、世界はより良くなっています。しかし、テレビ、ラジオやソーシャルメディアが絶えずネガティブなニュースを取り上げるので、なかなか信じがたいです。怒ったまま床に就き、怒ったまま目を覚ます人も多くいます。それは、私達がネガティブなことに浸っているからです。ネガティブなことに触れると、友人や家族と激しい議論にならないかと気が気でなりません。人はお互いに対しきつく当たるようになっています。思いやりのない言葉と分かっていながらその言葉を発しています。お互いへの接し方を思い出す必要があるようです。
おそらく、古い友人に助けを求める時期に来ています。古い友人とは、ミスター・ロジャースのことです。
アメリカやカナダに住んでいる人であれば、年齢や生活環境に関係なく、何百万人の人が、「ミスター・ロジャースのネイバーフッド」の人気キャラクターだったミスター・ロジャースについて、何かしら覚えていることがあるはずです。
赤いセーター。青い靴。歌。魚。路面電車。パペット。近所の人達。
視聴者を素晴らしい、興味深い冒険へと連れて行ってくれ、プレッツェルやクレヨンがどのようにできるかを教えてくれました。ミュージシャンも紹介してくれました。頭にランプのかさを被った近所の女性も登場してきました。
しかし、視聴者が覚えているのは、視聴者の心に訴えるミスター・ロジャースです。彼は友達のように視聴者に直接話しかけました。彼は穏やかでした。優しい話し方。正直。親切。
世界がミスター・ロジャースのような人格を持った人々で形成されたとすれば、より良い世界になるでしょうか。間違いありません。しかし、このような人はとても稀です。
フレッド・ロジャースはショーのキャラクターそのままだったと、彼を知る人々は言います。
2018年5月、ピッツバーグ財団のオフィス内で、会長兼CEOであるマックスウェル・キングは、ロジャースの故郷であるペンシルベニア州ラトローブにあるセント・ヴィンセント大学の初期学習および子どもメディアのためのフレッド・ロジャース・センターでディレクターとして活動している間に学んだことを共有してくれました。彼はリサーチをしたり、「The Good Neighbor: The Life and Work of Fred Rogers」という伝記を書いたりしていました。ロジャースは、心底本当にキャラクターになりきっていました、とキングは説明します。
「人情はおそらくフレッド・ロジャースにとって、最も重要なことだったのでしょう。」と、彼は言います。「人が彼に持つのは、テレビの革新者、幼児教育の専門家、ミュージシャン、脚本家、ソングライター、パフォーマー、操り人形師というようなイメージではないでしょうか。しかし、彼が一番大事にしていたのは、人情でした。」

「アスリートや演説者が、ビジョン・エクササイズで次に何が起こるのかや、どのように試合を進めるか、または、どのようにスピーチを進めるのかや、どのように授業を進めるかをイメージすることがあることを知っていますか。フレッド・ロジャースは、翌日に向けてそれを行います。では、何についてこのエクササイズをするのかわかりますか。仕事場で会う人達についてです。ランチで誰と会うのか。その日の午後のミーティングで誰に会うのか。そして、どのようにすれば、彼ができるだけ思いやりを持ち親切に接することができるのか。このようなことを彼は行いました。人情の模範となるべく、人生で自身の演ずる役を重要だととらえていました。」
ロジャースのテレビ、宗教(長老派教会の教師)や幼児教育研究という経歴により、彼には独特な見解があり、またそれにより愛と親切と受容というメッセージを何百人もの子ども達に届けることができました。彼の一言一言は慎重に選ばれ、精巧に作られました。カメラに向かって話し、子ども達の友達や隣人という感覚で接していました。子ども達が信用できる人ということです。
「ロジャースは実在しない」と思いたい自分が私達の心のどこかにいたと、ブラッド・モンタギューは言います。「彼はテレビで見るような親切な人じゃないんじゃないかと。戦争で戦ったことがあるとか。刺青があちこちに彫ってあるとか。なぜなら、私達は優しさや親切ということを理解できないからです。しかし、優しさや親切を実行するのは一番勇気の必要なことだと思います。子どもの頃だけではなく、大人になった現在でも、私が持っている優しさのイメージは勇気です。それはロジャースの影響です。彼は激しいほど親切でした。執拗に親切でした。そして、彼の行いは目的に向かって少し前進しました。」

道ですれ違っても、ブラッド・モンタギューに気づかないでしょう。フレッド・ロジャースほど人気はないかもしれません。ですが、彼の活動にはかなり支持者がいます。彼は「子ども大統領」という、快活な子どもがYouTubeで4,000万人(現在のところ)の視聴者に叱咤激励をするというビデオのクリエーターです。
9月のテネシー州ナッシュビル。モンタギューはちょうど「ワンダー・ワークショップ」を終えたところでした。このワークショップは「世界をあるべき姿に創造するために現在の状況に対して楽しく反抗する」ことができるように、参加者のモチベーションを上げ、鼓舞し、勇気づけるものです。ワークショップの参加者は、彼に感謝の言葉を言うために列を作ったり、自撮りをしたり、プロジェクトのアイデアを共有したりしています。30分以上話をし、笑顔で笑い、アドバイスをします。ハグに次ぐハグが交わされます。並んでいる1人1人と時間を過ごします。それが終わると質問を受けるために座りますが、すぐさま時間がかかったことに対して謝罪します。そして、フレッド・ロジャースも1人1人に時間をかけ、1人1人が特別であると感じさせるということで知られていたと言われると、モンタギューは椅子にもたれ、天井を見つめました。少し間があり、恥ずかしそうに微笑み、そして、つぶやくように言いました。「ありがとう。ありがとう。」
モンタギューの活動を追うと、彼がフレッド・ロジャースの大ファンであるとわかるでしょう。ソーシャルメディアではロジャースの言葉を共有し、ワークショップでは彼の名前を挙げます。モンタギューは、子ども達と密接に活動します。子ども達に聞いてもらえる機会を与えます。ロジャースが職場やプライベートで行ったように。モンタギューは、事実、「21世紀のミスター・ロジャース」と呼ばれています。そのように比較してもらうことは、「大変な誉め言葉」だと彼は言いますが、苦労しているところでもあります。
「究極の成功に導く3つの方法:1つ目は、親切にする。2つ目は、親切にする。3つ目は、親切にする。」— フレッド・ロジャース
「フレッドは、もう1人のフレッド・ロジャースを欲さないのではないかと思います。」と、彼は言います。「また、同じようにもう1人の私を望まないでしょう。しかし、フレッドは、扉を開く人間や手助けをする人間、ガイドになることはどういうことなのかを体現していますので、最高の誉め言葉として受け取りたいと思います。フレッド・ロジャース・センターから連絡があり、どれだけ(私達の「子ども大統領」ビデオが)共感と親切さを表現しているかと話してくれた時、『少なくとも私達は表面をなぞっていて、子どもの頃に見たテレビ番組が自分にとってどんなものであったかを少しでも表現できているのかもしれない』と、私は思いました。」
今年、「ミスター・ロジャースのネイバーフッド」は50周年を迎えました。キングの本が出版され、トム・ハンクスがロジャースを演じる映画の製作中です。まさに、過去最大級に人気のあった子ども番組のお祝いです。しかし、なぜこんなにフレッド・ロジャースについて大騒ぎしているのでしょうか。なぜ、大勢の人の記憶に彼は、良い印象として残っているのでしょうか。
答えは科学的かもしれません。

ブルック・ジョーンズは、「親切を振りまく財団(Random Acts of Kindness Foundation)」の副会長です。フレッド・ロジャースが見せたように、親切が私達の脳や体にどのように影響するかには科学が関与すると、彼女は言います。
「私は『三大』効果と呼んでいます。」と、彼女は言います。「親切な行いをしたり、受けたりすると、私達は気持ち良くなりますよね。そうすると、オキシトシン、セロトニンやドーパミンが増え、コルチゾールが減ります。しかし、知られていないのは、親切な行動を見た人の体にも同じような生理学的な反応が見られます。オキシトシン、セロトニンやドーパミンは『幸せ』ホルモンで、血圧を下げたり、心臓の状態全般を向上させたり、穏やかにしたりするのに役立ち、また、鬱になることを防ぎます。コルチゾールは、『ストレス』ホルモンで、定期的に親切な行為に触れることで、血液中のコルチゾールが減ることがわかっています。
科学が親切な行為が私達の気分を良くさせる(より良い人間になることに加え)ことを証明しているのであれば、もっと親切になれる方法はないのでしょうか。世界の感情的な健康を親切で変えることはできないでしょうか。ジョーンズは、「もちろんです」と言います。そして、事実、親切を振りまく財団(RAK)のスタッフは、毎日学生用の無料親切カリキュラムに努力を費やしています。世界中で毎年200万人の学生がRAKカリキュラムを受けています。
「学ぶことができるものだと考えています。」と、彼女は言います。「私達が提供する資料の1つに、親切を元に科学的根拠に基づくカリキュラムがあります。このカリキュラムは1年のレッスンプランで構成されており、思いやり、尊敬、責任、誠実、そして感謝という概念を取り上げています。親切を実践し、体現し始めることで、私達はなぜそうすることが重要なのかを自然に教えることができます。
モンタギューは、親切や私達がどのようにお互いの人生に影響を与えるかについて、私達と似ていますが、異なった見解を持っています。
「親切な人の事は覚えています。その理由は、私達が何者であるか、どういう風になりたいのかということを気づかせてくれるからです。」と、彼は言います。「私は多くの子どもをインタービューして、『私が良い大人になるにはどうすれば良いか』を尋ねました。大人に一緒に来て欲しいという意見が圧倒的でした。そこにいて欲しいだけなのです。フレッド・ロジャース・センターのジュンレイ・リーは、同様のリサーチを行っており、フレッド・ロジャースが言ったような調査結果を得ています。目を見張るようなことをする必要はないのです。ただそこにいればいいのです。靴ひもを結んであげるとか、目を見てあげるとか。子どもの保護者として愛をもって行うことができれば、そういうことが最も重要なことです。」

ジュンレイ・リーは、上級研究員およびフレッド・ロジャース・センターの元ディレクターです。「人が困難に直面し、回復する上で究極に違いを見せるのは、思いやりがあり、信用できて、支えになってくれる人が少なくとも1人いることです。」と、彼は言います。モンタギューが言うように、そこにいてあげてください。
リーは、『少なくとも1人』の原則と呼んでいます。
「私達は皆、成長する際『少なくとも1人』そのような人が必要です。」と、彼は言います。「私達の人生において、どこかで誰かの『少なくとも1人』になる機会があります。」
「フレッド・ロジャースは、『少なくとも1人』というアイデアについて、言葉を残しています。『良い活動を維持することができる人は誰でも、1人とは言わず、たいてい大勢から信頼されます。他者から様々なことを得ることができなければ、私達は有能な人間にはなれません。』」
他者とは、家族、友人、あなたの仲間、または良心を持った全くの他人かもしれません。全員、フレッド・ロジャースにとっては、隣人でした。あなたも彼の隣人でした。
「フレッドは、隣人という概念と私達ができることに豊かなイメージを持たせました。1人1人の違いを活かして、誰かの隣人になるには、私達自身の隣人の違いを称え、敬意を払うことです。」と、リーは言います。「彼の視聴者は子どもだったかもしれませんが、彼のメッセージは全世界に向けて送られていました。」
「フレッドは最後の演説で、私達はみな、何か与える価値のあるものを持っていて、そのことを知りたくてしょうがないと言っていました。彼が言いたかったことは、私達の隣人、家族、コミュニティ、そして社会には与える価値があるということです。『私達が隣人や他人に対してできる最高の活動が、その人達にこの世の中に与える価値のある何かを持っているということを気づかせることだったらどうだろうか。』と、彼は感じていました。」
これがどうすれば私達がフレッド・ロジャースのように思いやりを持ち、親切になるのかという、リーの哲学的な答えです。彼の実践的な答えは何でしょうか。
「(彼は私達に)手助けをする人を周りから探し出すだけでなく、自分達の中にも探し出してほしかったのだと思います。」と、リーは言います。「最も普通で、ありふれた、単純な毎日のやり取りと行動の中。それが、私が思うに、おそらく、私達の手の届く範囲にあるものなのかもしれません。」(敬称略)
フレッド・ロジャース・センターが子ども達のために子ども達とどのように活動をしているのかは、fredrogerscenter.orgでご覧いただけます。
「楽しい反抗者」になるには、montagueworkshop.comから。
「The Good Neighbor」は、abramsbooks.com/goodneighborで、詳しくご覧いただけます。